■家政学図書目録刊行会「今、オススメの1冊」


妊娠中を含めた1000日間の栄養が
生涯の健康に影響

―1000DaysパートナーシップとDOHaD―

小山田 正人(藤女子大学 人間生活学部 食物栄養学科 教授)

1000Daysパートナーシップとは

 1000Daysパートナーシップとは、妊娠期間と2歳までを合わせた約1000日間が、人間の健康で豊かな未来を実現する上で、特に重要な期間であるという理論に基づいた全世界規模の栄養改善運動である。この1000日間における適切な栄養は、子どもの成長・学習・貧困からの脱出のための能力獲得に強く影響するだけでなく、社会の長期的な健康・安定・繁栄を実現すると考えられている。

 現在の地球レベルでの栄養問題をひと言で表現すると、拡大する格差である。これは、先進国では過栄養による肥満をはじめとする生活習慣病が健康リスクとして大きく寄与している一方、発展途上国では低栄養により毎年350万人の小児が死亡していることに端的に表れている。

 1000Daysパートナーシップでは、1000日間の母親と小児の栄養改善に焦点を絞ることにより、子どもが健康で生産性の高い生活が送れることを目指している。この期間での栄養改善への投資によって、毎年100万人以上の命を救えること、結核・マラリア・エイズなどの疾患による人的及び経済的負担を著しく減少させること、個人の教育的達成度と収入の向上、国のGDPを毎年2〜3%増加させることができることが科学的根拠をもって示されている。さらに、1000日間の栄養改善は、成人期の糖尿病などの慢性疾患のリスクを減らすことも分かっている(次のDOHaDの項目で説明する)。

 1000Daysパートナーシップの詳細は、ホームページ(http://dev.thousanddays.org/)で読むことができる。

DOHaDとは

 DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)とは、胎児期〜幼小児期の不適切な栄養が、成人期の慢性疾患の発生リスクとなるという概念である。この概念は1980年代に、イギリスの疫学者であるDavid Barkerらによって提唱された(Barker仮説)。彼らは、1911年から1930年に生まれた児約16,000人を対象にした疫学研究で、心筋梗塞による死亡率と出生体重の関連性を検討し、出生体重が小さくなると共に死亡率は上昇すること、巨大児では同様にリスクが上昇することを示し、虚血性心疾患リスクは、出生体重と密接な関連を持つ事を初めて明らかにした。その後、心筋梗塞以外でも、胎児期〜幼小児期の低栄養や発育遅延が、脳卒中・高血圧・2型糖尿病・骨粗鬆症・悪性腫瘍・精神神経疾患等のリスク要因となることが明らかにされている。

 多くの報告のなかで特に興味を引くのは、“オランダの冬の飢餓”(第二次大戦末期のドイツ軍占領下オランダの特定地域における約半年間にわたる極端な食料調達困難環境)である。戦後約50年を経て、この期間に妊娠中あるいは出生し後に成人となった人たちが、占領の影響を受けなかった他のオランダ地域の成人群に比較し、高血圧・耐糖能異常・冠動脈疾患・統合失調症を含めた疾患を高率に発症することが明らかとなった。また、DOHaDのメカニズムに関しては、胎児期〜幼小児期の不適切な栄養が、物質代謝のキー遺伝子をエピジェネティク制御[DNA(塩基配列)の変化なしに、遺伝子発現調節を変化させる]している証拠が示されている。

DOHaDと日本の現状

 日本の現状(20歳代女性のやせが多く、出生時平均体重が減少し、2500g以下の低出生体重児が1割に迫っている)は、今後DOHaDに関連する成人の疾患(肥満症・高血圧症・2型糖尿病・虚血性心疾患・脳卒中・骨粗鬆症・悪性腫瘍・精神神経疾患等)が増加する危険性を示している。本年、国内におけるDOHaD概念の普及とDOHaDの視点に立った学際的な研究プロジェクトの推進を目的として、日本DOHaD研究会(http://square.umin.ac.jp/Jp-DOHaD/)が設立され、その第一回研究会が8月4日に開催された。

《DOHaD》 関連書籍一覧
出版社名 書名
(シリーズ名)
ISBN 編著者名 定価(税込)
化学同人 放射能汚染 ほんとうの影響を考える:フクシマとチェルノブイリから何を学ぶか(DOJIN選書40) 978-4-7598-1340-1 浦島充佳 著 1,995円
建帛社 栄養とエピジェネティクス―食による身体変化と生活習慣病の分子構造 978-4-7679-6166-8 ネスレ栄養科学会議
監修
2,205円
建帛社 テーラーメイド個人対応栄養学 978-4-7679-6140-8 日本栄養・食糧学会
監修
3,150円
(今後、改訂が予定されている書目を含みます)